レース中の胃腸トラブルを防ぐヒント

コラム

HYROXで発生したトラブルが話題になっています。マラソンやトレイルランニングを続けていると、一度くらいはレース中の胃腸トラブルを経験したことがある人も多いのではないでしょうか。

腹痛、吐き気、胃もたれ、急な便意、下痢。症状が強ければ、レースどころではなくなります。

私自身も、これまで何度か似たような経験があります。そのため最近は、レースや長時間のアクティビティ前には、普段食べないものや脂っこいものをできるだけ避けるようにしています。胃腸トラブルは単なる体調不良ではなく、運動の強度、食事、補給、水分など、いくつもの要因が重なって起こるようです。

なぜ運動すると胃腸トラブルが起きるのか

長時間、あるいは高強度の運動をすると、血液は運動している筋肉や体温調節のための皮膚へ優先的に送られます。その結果、消化器官へ流れる血液は相対的に減少します。そこへランニングによる上下動や、暑さ、脱水、レース特有の緊張などが加わります。

つまり、普段なら問題なく消化できる食べ物でも、運動中の胃腸には負担になる可能性があります。ランナーの間で、レース中の急な便意や下痢が珍しくないのも、このあたりが関係していると思われます。

レース前に「普段食べないもの」を食べない

これは私が特に気をつけていることです。

旅行先のレースでは、その土地の名物を食べたくなりますが、レース前日に脂っこい料理や刺激の強い料理をたくさん食べるのは、少しリスクがあります。

特に注意したいのは、

  • 脂質の多い食事
  • 食物繊維の多い食事
  • 香辛料の強い料理
  • 大量のアルコール
  • 普段あまり食べない乳製品
  • 食べ慣れていない補給食

などです。

もちろん個人差はあります。重要なのは、「一般的に胃に良いもの」よりも、「自分が普段食べて問題のないもの」を選ぶことだと考えています。

レース前日に食事で冒険する必要はありません。

ジェルの摂りすぎにも注意

もう一つ気をつけたいのが、エネルギージェル。

長距離レースではエネルギー切れが怖いため、つい「多めに摂っておこう」と考えてしまいます。しかし、ジェルも摂れば摂るほど良いわけではありません。

ジェルは糖質を非常に高い濃度で含んでいます。短時間に何本も摂ったり、水分を十分に取らずに摂ったりすると、胃の中に高濃度の糖質がたまり、胃もたれや吐き気、腹痛につながることがあります。

感覚としては「ジェルが胃に張り付いている」ように感じることもありますが、実際には胃壁に付着しているというより、胃から先へうまく流れていかず、胃の中に滞留している状態に近いようです。

例えば1個あたり糖質25gのジェルなら、30分ごとに1個で、1時間あたり約50g。個人差はありそうですが、これくらいなら問題ない人も多いでしょう。しかし、15〜20分おきに摂れば、1時間あたり75〜100gになります。この量になると、胃腸の処理能力もかなり要求されます。

エネルギー不足を心配するあまり、補給そのものが胃腸トラブルの原因になってしまっては本末転倒です。

ジェルは水と一緒に摂る

ジェルを摂る場合、水分も重要です。

高濃度のジェルだけを胃に送り続けるより、水と一緒に摂った方が胃の中で薄まり、消化管への負担を軽減しやすくなります。逆に、スポーツドリンクでジェルを流し込むと、糖質濃度がさらに高くなることもあります。

ジェルを摂る時は水と一緒に!

補給もトレーニングする

レース本番で突然、新しいジェルや補給方法を試すのも避けたいところです。

脚や心肺だけでなく、胃腸にも慣れがあります。

大会前には、

  • 何分おきに補給するか
  • 何個までなら問題ないか
  • どのメーカーのジェルが合うか
  • 水をどれくらい飲むか

を試しておく。これもレース準備の一部です。最近では、こうした考え方を「Gut Training(腸のトレーニング)」と呼ぶこともあるそうです。

普段のトレーニング、特にロング走で試すぐらいが良さそうです。

「多く摂る」より「問題なく摂れる量」

補給について調べると、「1時間に糖質○○g」といった数字が出てきます。もちろん参考にはなります。ただ、市民ランナーにとって重要なのは、理論上の最大量を摂ることではなく、

自分の胃腸が問題なく処理できる量を知ること

ではないでしょうか。

60g摂って胃腸を壊すくらいなら、40gを問題なく摂り続けられる方が、レース全体ではうまくいく可能性があります。

これはペース配分と同じです。限界まで攻めることが必ずしも最適とは限りません。

レース前後で私が気をつけていること

私自身は最近、次のようなことを意識しています。

レース前日は食べ慣れたものを中心にする。

脂っこい料理を避ける。

当日の朝食もいつも食べているものにする。

ジェルを必要以上に摂らない。

ジェルはできるだけ水と一緒に摂る。

新しい補給食は事前に試す。

どれも特別な方法ではありません。こうした小さな工夫だけでも、レース中の胃腸トラブルのリスクはかなり減らせるのではないかと思っています。

胃腸もレース装備の一つ

ランニングでは、シューズやウェア、補給食にはかなり気を使います。一方で、胃腸のコンディションについては、意外と後回しになりがちです。

しかし42.195kmを走るフルマラソンや、何時間にも及ぶトレイルランでは、胃腸も重要な「装備」の一つです。脚が元気でも、胃腸が止まれば走れません。

レース前の食事をシンプルにする。

補給を欲張りすぎない。

本番で初めてのものを試さない。

自分に合った補給方法を練習の中で見つける。

速く走るためのトレーニングだけでなく、最後まで気持ちよく走るための胃腸対策も、長距離スポーツでは大切なのだと思います。